財団法人 アジア刑政財団
理事長 敷田 稔    


自然災害後の犯罪等発生防止のためのプロジェクトの発足について

昨年暮れのスマトラ沖大地震に伴う大津波によりインド洋湾岸地域は死者21万人にも及ぶ未曾有の大災害に襲われ、被災各地では犯罪組織の関与も少なくないとされる人身売買、略奪、詐欺などの犯罪が発生し、大災害の被災者の苦難に更に追い打ちをかけるような卑劣な二次災害が深刻化しているといわれる。また、世界中から寄せられている大規模な支援に支えられて今後の復旧復興を進めていく過程においても、こうした支援金品の分配をめぐる各種の犯罪や金融機関等の被災に乗じた巧妙な犯罪の多発なども懸念されている。さらに、警察を始めとする犯罪防止・刑事司法関係機関も被災に伴い組織力・機動力が著しく低下しているため、治安の悪化が社会不安や経済的混乱を増幅させているという。

 そこで国連NGOであるアジア刑政財団(Asia Crime Prevention FoundationACPFは、被災国のインド、インドネシア、マレーシア、スリランカ、タイなどにある同財団関係組織に対して、こうした犯罪発生の実態とその防止のために官民が力を合わせて緊急に講じている諸対策の実情、さらに緊急に講ずべき諸対策の実施の促進などの実情についての調査・報告を依頼した。現に壊滅的な被害状況の中にあるインドネシア・アチェ州については、首都ジャカルタから救援に赴いている同財団と関係のあるインドネシア人のボランティア・グループを全面的に支援し、その活動の展開にあわせての現地での情報収集を期するなどしており、他の被災国においても同財団関係組織のネットワークをフルに活用して、犯罪実態、犯罪防止・刑事司法関係機関の実情と民間協力も得た緊急対応策などについて調査や諸対策の実施を促進する活動を進めている。

ACPFでは、このさしあたっての諸対策実施促進の効果や各種調査結果を基礎に、関係が深い国連アジア極東犯罪防止研修所(東京都府中市)などの協力も得て世界各国の代表者等からなる専門家会議を開催し、我が国の阪神大震災に関する経験などをも参考にしながら、各国の貴重な経験を集大成して、自然災害後の犯罪等の二次災害発生を防止し災害の社会・経済的被害を最小限にするための刑事司法の役割に関するガイドラインとでもいうべきものを作成し、各国の施策の参考に供したいと考えている。

このようなACPFの取り組みは、既に国連の犯罪防止・刑事司法関係者の間でも注目を集めており、本年4月末にタイ・バンコクで開催される第11回国連犯罪防止・刑事司法コングレスにおいても、本プロジェクトの実施経過についての発表が求められているところである。

 アジア刑政財団は1982年に設立され、1991年には国連経済社会理事会の「特別協議資格」組織に認定され、さらに2000年には世界に数少ない「総合協議資格」に格上げされたトップカテゴリー国連NGOであり、国連アジア極東犯罪防止研修所と緊密に協力しながら、アジアを中心とした世界各国で幅広い活動を展開している。各国で組織されている同財団の姉妹組織は、それぞれ検察、警察、矯正などの刑事司法機関の中枢にあった者が幹部となっており、多くの現職者も参加していることから、同財団は各国の犯罪防止・刑事司法関係機関の首脳とも親交が深い。同財団が既に10回にわたり各国で開催してきたACPF犯罪防止・刑事司法世界大会では、マハティ−ル首相、ラモス大統領など開催国の首脳の開会演説が恒例化しており、刑事司法関係者の“非公式”で“本音”による協議と実践の場として機能してきた。刑事司法の機能は国家主権の中核であるため他国の干渉に極めて敏感であり、政府間の公式な国際協議では討議しにくい。しかし、このようなACPFの協議の場では、積極的・機動的に対応できる強みがある。

今回の自然災害後の犯罪発生の防止のためのプロジェクトの発足も、その強みを生かして、今後の各国の自然災害に際して役立つであろう犯罪防止・刑事司法関係の知見を集約しようとする、日本を起点としてのアジア刑政財団の新たな国際貢献の展開であり、その犯罪等の二次災害の防止や社会的秩序の回復・維持などのための短期的・長期的な各種対策についての提言は、自然災害後の各国の施策やこれに対する緊急人道支援と復旧復興支援にも欠かすことのできない極めて重要な分野を明らかにするものとなろう。